- 2007年12月27日
映画『くちびるに歌を』は、シンガー・ソングライターのアンジェラ・アキさんの名曲「手紙 ~拝啓 十五の君へ~」を題材にしたテレビドキュメントから着想を得た中田永一さんの同名小説を実写化した作品です。『ソラニン』や『ホットロード』などの三木孝浩監督がメガホンを取っています。
新垣結衣さんは、主人公の柏木ユリ役で出演しています。
先日、試写会で鑑賞しました。本日2月28日から全国公開されています。
●導入部のあらすじと感想
長崎県・五島列島にある中五島中学校。産休に入る音楽教師・松山ハルコ(木村文乃さん)の代理を務めるため、柏木ユリ(新垣結衣さん)が数年ぶりに故郷に戻ってきた。
音大出のプロのピアニストとして東京で活躍していた美人のユリに、生徒たちは大興奮。しかし、なぜかユリはピアノを弾かないことが条件で臨時教員を引き受けたようだ。ユリは中学校の同級生であったよしみで、ハルコから合唱部の顧問を任される。するとユリ目当てで合唱部に入部したいという男子生徒が続出。地味で目立たないタイプの桑原サトル(下田翔大さん)もひょんなことから合唱部に入部する。もともと合唱部には女子しかおらず、合唱部の仲村ナズナ(恒松祐里さん)たちが男子の入部に反対するが、ユリはお構いなしに男子生徒の入部を許可。全国学校合唱コンクール長崎県大会に男子との混声で出場する方向となる。
そんなある日、ユリは課題曲である「手紙 ~拝啓 十五の君へ~」の練習のために歌詞の意味を理解する必要があるとして、15年後の自分に宛てた手紙を書くという宿題を生徒たちに出すのだった…。
心に傷を抱えた臨時教員・ユリと、悩みを抱えたサトルやナズナを中心とする生徒たちが、合唱を通じて交流し、成長していく姿が描かれていました。
サトルが合唱部仲間の男子生徒に誘われて“奇跡の場所”に同行して交流を深める場面や、教師・塚本哲男(桐谷健太さん)がユリに惚れてまるで親衛隊のようにユリをサポートする場面などはほっこりしましたし、一方でサトルやナズナが抱える悩みには色々考えさせられました。また、サトルの周囲と距離を置く控えめな性格や、ナズナの男に対して厳しい性格は、いわば悩みに起因したものとなっていて、ステレオタイプ的ではありましたが、説得力がありました。
冒頭で生徒たちがユリのことを調べて動画共有サイトで見つけた「美人ピアニスト、コンサートをボイコット」騒動は、ユリの心の傷と関係がありました。彼氏の留守電メッセージや繋がらない携帯電話などの伏線もベタながらよくできていると思いました。伏線と言えば、一番感心させられたのは、ナズナの幼い頃のエピソードと、サトルの兄・アキオ(渡辺大知さん)の機嫌がいい時に出る口癖の由来が繋がるところです。“長い汽笛の音”の一致は偶然ではないと思っていましたが、あのように繋がるとは驚きました。内容に少し触れてしまいますが、その際にナズナの母・静流(石田ひかりさん)が言っていた「あんたがおってくれて良かった」というセリフも印象的でした。
そして、やはりなんと言っても合唱シーンが素晴らしかったです。回想を織り交ぜたコンクールの合唱シーンもさることながら、コンクール後の大合唱シーンも、多少やり過ぎ感はありましたが感動的でした。
逃げずに闘うことを生徒たちから教わったユリ。一人じゃない、必ず助けてくれる人がいることをユリから教わった生徒たち。大人も子どもも悲しみを避けて通ることはできませんが、主題歌「手紙 ~拝啓 十五の君へ~」の歌詞にもあるように、笑顔を見せて今を生きていくことが大切なのでしょう。必ず活路は開けるはずです。