今夜、ロマンス劇場で (綾瀬はるかさん & 坂口健太郎さん)

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映画『今夜、ロマンス劇場で』は、『のだめカンタービレ』シリーズなどの武内英樹監督がメガホンを取り、『信長協奏曲』などの宇山佳佑さんが脚本を担当しています。
綾瀬はるかさんは美雪 役で、坂口健太郎さんは牧野健司 役で出演しています。
先日、劇場に観に行きました。
●導入部のあらすじと感想(ネタバレ注意)
昭和35年。助監督として働く牧野健司(坂口健太郎さん)は、真面目だが要領が悪くてドジな青年だ。そんな健司は、通いなれた映画館「ロマンス劇場」の映写室で廃棄扱いになった古いフィルムを見つけ、ロマンス劇場の館主・本多正(柄本明さん)に頼んで毎日のように繰り返し観ていた。それは今はもう誰も観なくなった古いモノクロ映画『お転婆姫と三獣士』だ。健司はその映画に登場する姫・美雪(綾瀬はるかさん)に心を奪われる。美雪への想いは日増しに強まり、彼女に会いたいとまで思うようになっていた。
そんなある日。健司は、そのフィルムが物好きな収集家に売られることになったことを本多から知らされる。もうスクリーンの美雪に会えないと、別れを悲しみながら映画を観ていると、落雷による停電で館内は真っ暗闇になる。そして再び明かりがつくと、目の前にはなんと美雪の姿があった。自身もモノクロの姿でモノクロの世界しか知らない美雪は、初めて見るカラフルな現実世界に心を躍らせる。そんな姿を見て、健司は1つずつ色を教えていく。美雪は健司に「今日からおまえは私のしもべだ」と命令し、その日から2人の不思議な同居生活が始まるのだった…。
同じ時間を過ごし、シナリオハンティングの名目でデートを重ねる健司と美雪は、次第に惹かれ合っていきます。しかし、美雪には大きな秘密がありました。それは「人の温もりに触れたら消えてしまう」ということでした。それが美雪が現実世界に来る代償だったのです。好きだから距離を縮めたい、でも触れたら消えてしまう…。手を繋ぐことさえできない2人。そんな究極のプラトニック・ラブとも言える恋物語が切なかったです。
2人の恋が色づくにつれてスクリーンが鮮やかになっていくのも印象的でした。ロマンス劇場のロビーのカラフルさに始まり、初めて2人で見た青空、カラフルなかき氷、祭りの情景、色とりどりの花、頭上に広がる藤の花、夜の川辺の蛍、そして虹。美雪の心情を表しているかのようなカラフルな衣装。どれも美しくて心に残りました。クラシカルないでたちで気品に満ちた美雪もよかったです。
2人を取り巻く周りの登場人物たちも魅力的で物語を盛り上げていました。健司が所属する映画会社「京映」の社長令嬢・成瀬塔子(本田翼さん)は、健司のことを心から応援し、密かに恋心を抱いています。大人気映画『ハンサムガイ』シリーズの主演を務める、京映の看板スター・俊藤龍之介(北村一輝さん)は、ナルシストで超ポジティブな性格です。健司の同僚・山中伸太郎(中尾明慶さん)は、良き友人であり映画監督を目指すライバルでもあります。健司が通いつめるロマンス劇場の館主・本多は、お金にがめついですが、健司の良き理解者であり、実はある経験の持ち主でした。
そしてこの物語で興味深いのは、現代パートがあることです。結末が書かれていない映画の脚本を大事に持っている、余命いくばくもない病室の老人(加藤剛さん)。そんな老人が転んでも手を差し伸べない孫らしき人物。老人が入院している病院の看護師で、老人が持っている脚本に興味を示す吉川天音(石橋杏奈さん)。この3人がある意味、物語の重要なカギを握っていました。
ある名作映画をヒントにしたであろうガラス越しの健司と美雪のキスシーンも印象的でした。それは単なるオマージュに終わらず、きちんと必然性があったという点も素晴らしかったです。このように本作には名作映画のエッセンスがオマージュ的に随所に盛り込まれていますが、日本映画業界の流れみたいなものも描かれていて、そこにも想いが込められていて感心しました。健司と美雪が出会った昭和35年は、映画が人々の最大の娯楽だった時代ですが、カラー放送が始まったことによりまもなく映画からテレビへと移り変わって日本映画産業に翳りが見え隠れするようになります。本作はその過程と重ねるように、そして美雪の運命と重ねるように、忘れ去られた古き良き映画たちへの想いも込められていて感動的でした。