テルマエ・ロマエ (阿部寛さん)

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映画『テルマエ・ロマエ』は、マンガ大賞2010、第14回手塚治虫文化賞短編賞を受賞したヤマザキマリさんの同名漫画を、『のだめカンタービレ 最終楽章』シリーズの武内英樹監督が実写映画化した作品です。
阿部寛さんは、ルシウス役で出演しています。
先日、劇場に観に行きました。
●導入部のあらすじと感想
古代ローマ、ハドリアヌス帝(市村正親さん)の時代。浴場設計技師のルシウス(阿部寛さん)は、革新的な建造物が次々と誕生する世相の中、昔ながらの浴場の建設を提案して採用されず、落ち込んでいた。そんな彼の気を紛らわせようと、友人・マルクス(勝矢さん)はルシウスを公衆浴場に連れて行く。しかし、周囲の騒々しさに耐えかね雑音を遮るため湯船の中にもぐったルシウスは、壁の一角に奇妙な排水口が開いているのを見つけ、仕組みを調べようと近づいたところ、足を取られて吸い込まれてしまう。もがきながら水面の外に顔を出すと、見たこともない様式の浴場に出て、ローマ人とは違う“平たい顔”の民族がくつろいでいた。本人は気づいていないが、突然現代の日本の銭湯にタイムスリップしてしまったのだ。
ルシウスは発達した銭湯のシステムと、フルーツ牛乳のおいしさに衝撃を受ける。そしてその場に偶然居合わせた漫画家志望の山越真実(上戸彩さん)は、『北斗の拳』のケンシロウのようなルシウスに興味を持つようになる。
気がつくとローマに戻っていたルシウスは、早速、自分が目にした“平たい顔族(=日本人)”の風呂を参考にして浴場を設計する。その浴場はたちまち評判を呼び、これ以降もルシウスは古代ローマと現代日本の世界を行き来し、自らの創意工夫によるものではないことに後ろめたさを感じつつも、現代日本で得たアイデアをローマでの浴場設計・運用考案に活かし、一躍有名になっていくのだった…。
題名の“テルマエ・ロマエ”は、ラテン語で“ローマの浴場”の意味です。
観る前は日本人が古代ローマ人を演じるというのはどうなんだろうと思っていましたが、ルシウス役の阿部寛さんをはじめ、ハドリアヌス帝役の市村正親さん、次期皇帝候補・ケイオニウス役の北村一輝さん、ハドリアヌスの側近・アントニヌス役の宍戸開さんなど、現地のイタリア人キャストと交じっても違和感がありませんでした。そんな“濃い顔”の方々に対して“平たい顔”をしている日本人、真実の父・修造役の笹野高史さん、棟梁・岸本役の外波山文明さん、長老・名倉役の飯沼慧さんなどもいい味を出していて、じいちゃんの底力をみせてくれました。全身に傷跡があるヤーサンこと館野役の竹内力さんもこれぞハマり役という感じでした。原作には登場しないヒロイン・真実役の上戸彩さんは可愛らしさ全開で、特にエンディングの入浴シーンは男性にとっては見どころの1つといえるでしょう。
そしてやはり、なんといっても古代ローマ人のルシウスが、現代日本の風呂を見て、カルチャーギャップに驚くという場面が面白かったです。阿部さんが驚きや戸惑いをその濃い顔で豊かに表現し、心の声もはまっていました。
コメディ要素はもちろんのこと、ローマの歴史が変わってしまうかもしれないという危機に直面するなど、なかなか壮大なストーリー展開もあって面白かったです。そんな話にリアルな雰囲気を醸し出してくれた古代ローマのシーンは、“チネチッタ”というイタリアで最大級の由緒あるスタジオのオープンセットで撮影されたそうです。映画ならではのスケール感が出ていてよかったです。また、逆に癒し要素が多く含まれていた現代日本のシーンは、那須温泉郷の北温泉や伊香保温泉など日本を代表する秘湯、名湯や、実際に今も営業している銭湯などで撮影されたそうです。日本の古きよき文化が感じられてよかったです。
“己を殺してまで生きたくない”という考え方だったルシウスですが、ローマの危機を救うために、名誉にもならない全く関係のない“平たい顔族”が力を尽くしてくれる姿を見て成長します。ルシウスが最後に「私の力ではありません。皆の代わりとして有難く頂戴いたします」とハドリアヌス帝に答える場面が印象的でした。ルシウスは偉人たちを陰で支えるいわば“名もなき功労者”で歴史に名を残すことはありませんが、自分の名誉よりも優先すべきことに気づいて幸せを感じているはずです。そしてそれは無我夢中でもがいたからこそ気づけたのでしょう。私も真実とルシウスのように「まだまだもがいてみる」ことにします。