相棒シリーズ X DAY (川原和久さん & 田中圭さん)

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映画『相棒シリーズ X DAY』は、テレビ朝日系の刑事ドラマシリーズ『相棒』の4作目の劇場版であり、『相棒シリーズ 鑑識・米沢守の事件簿』に続くスピンオフ映画第2弾です。
川原和久さんは伊丹憲一 役で、田中圭さんは岩月彬 役で出演しています。
先日、劇場に観に行きました。
●導入部のあらすじと感想
東京明和銀行本店システム部の中山雄吾(戸次重幸さん)の死体が発見され、警視庁捜査一課の伊丹憲一(川原和久さん)たちが現場に駆けつける。死体のそばには100万円分とみられる札束の燃え残りがあり、伊丹たちは不思議に思う。そんな中、サイバー犯罪対策課専門捜査官・岩月彬(田中圭さん)が現れる。なんでも被害者の中山は生前、ネットに不正アクセスし、“Justice11”というハンドルネームで銀行の機密情報を意図的に流出させていたらしいのだ。捜査を岩月と共に始めようとする伊丹だが、岩月は、殺人捜査は自分の仕事ではないと言って現場を去ろうとする。伊丹は、何で殺されたのか気にならないのかと怒り、同じ捜査一課の三浦信輔(大谷亮介さん)と芹沢慶二(山中崇史さん)がなだめる。
伊丹と岩月に事情をきかれた中山の上司・朽木貞義(田口トモロヲさん)は、流出したデータはシステム障害の際の対策マニュアルだと話す。しかし、そのデータの提出を要請されると、岩月は困惑した様子をみせる。伊丹は“刑事の勘”で、殺人の動機は流出したデータと関係があるとにらむ。同じ銀行に勤めている中山の恋人・麻生美奈(国仲涼子さん)にも事情をきくが、法人営業部なので対策マニュアルのことは分からないと素っ気ない態度だ。
中山が亡くなった後にも同じ機密情報の流出があり、中山の他にも“Justice11”が存在することが判明する。また、朽木が提出したデータは流出していたものと全くの別物であることも判明する。捜査一課と捜査二課とサイバー犯罪対策課の合同捜査本部が立ち上げられ、三浦の「刑事は現場でわかり合うしかない」との配慮もあり、伊丹と岩月は嫌々ながら捜査でコンビを組むことになるのだった…。
本作の“相棒”は、放送開始以来、杉下右京(水谷豊さん)が所属する特命係を目の敵のように接してきた捜査一課の伊丹と、先日放送のテレビシリーズで初登場となったサイバー犯罪対策課専門捜査官の岩月です。時系列はseason10直後に位置づけられていて、『相棒 Eleven(season11)』で右京の相棒となった甲斐享(成宮寛貴さん)は登場しません。でも、休暇でロンドン滞在中の右京と、season10の最後で警察庁に異動となった神戸尊(及川光博さん)が少しだけですが登場します。神戸と右京が電話で話す場面で、神戸が右京に意見する際のおなじみのセリフ「お言葉ですが…」が聞けて嬉しかったです。
現場を重視し、足と“刑事の勘”で捜査を進める昔気質の伊丹と、データと物証を重視し、捜査も“仕事”と割り切る岩月は、いわば水と油の関係で衝突してばかりです。神戸や甲斐とはあまりいがみ合うといった場面がなかったので、久しぶりに亀山薫(寺脇康文さん)の時のような嫌味合戦があって懐かしかったです。事情聴取の際も、伊丹は真正面から挑むのに対し、岩月はネチネチ攻めます。そんな手法も考え方も違う2人ですが、ある時は伊丹の勘が岩月の解析によって裏づけられたり、またある時は岩月のデータの空白を伊丹の読みが補完したりします。お互いにいがみ合いながらも、次第に連係プレーを見せるようになる様子は爽快でした。
単純に殺人犯を捕まえたいだけなのに、事態は複雑化し、2人はやがて巨大な壁に行く手をはばまれることになります。それは財務省族議員、警察庁、大手都銀、金融庁といった政官財の思惑です。警視庁刑事部長・内村完爾(片桐竜次さん)は、自室に飾ってある「古轍」と書かれた書に従うがごとく、警察庁長官・金子文郎(宇津井健さん)の雑談という名の圧力に従い、伊丹たちに捜査中止命令を下します。ちなみに古轍とは、先人の行った跡、昔ながらのやり方といった意味です。
上層部からのあからさまな圧力に屈しかける伊丹と岩月ですが、正義のために信念の下、動き出します。小料理屋「花の里」の女将・月本幸子(鈴木杏樹さん)が自身の体験談を交えて岩月に“お金=信用”と諭し、岩月が、お金は信用されなかったらただの紙くずだと納得する場面が印象的でした。最初は常に冷静に見えた岩月でしたが、熱血刑事・伊丹の影響を受けたのか、物語の後半では、情報を金にかえることしか頭になくて反省の色が全く見えない容疑者につかみかかるという場面もありました。
そういえば、テレビシリーズでは「暇か?」と言ってコーヒーを注ぎに来て雑談をする場面ばかりの組織犯罪対策第5課長・角田六郎(山西惇さん)ですが、本作ではなかなかの武闘派ぶりや、事情聴取での絶妙な駆け引きを披露してくれます。角田課長と監察官・大河内春樹(神保悟志さん)のコンビも新鮮で面白かったです。
衆議院議員総理補佐官・片山雛子(木村佳乃さん)と財務省族議員・戸張弘成(別所哲也さん)のそれぞれの思惑、駆け引きも見ごたえがありました。戸張の日本国民をバカにした「絶望の真実より希望の嘘に飛びつく人が多い」「複雑な真実より分かりやすい嘘が大好き」「何の行動を起こさなくても、明日もまた今日と同じ生活があると信じてる。そうじゃない現実を何度も見てきたのに」といった言葉は、個人的に耳が痛かったです。それだけに、岩月がラストに伊丹に言う「難しいことを面倒だと逃げていると、X DAYが来ちゃいますよ」というセリフは身につまされました。
本作では、金融問題をはじめ、ネット犯罪、組織防衛のための情報隠ぺいなど、まさに現代社会が直面している諸問題が扱われています。テーマだけ聞くと難解そうですが、そこはさすが“相棒”、見事なエンターテインメントに仕上がっていました。ますます広がる“相棒”ワールドに今後も目が離せません。