脳男 (生田斗真さん)

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生田斗真さんは、映画『脳男』に脳男こと鈴木一郎(本名:入陶大威)役で出演しています。
同作は、第46回江戸川乱歩賞を受賞した首藤瓜於さんによる同名小説が原作です。
先日、劇場に観に行きました。
●導入部のあらすじと感想
都内近郊で無差別連続爆破事件が発生する。刑事の茶屋(江口洋介さん)は後輩の“新人”こと広野(大和田健介さん)とともに捜査を進め、ついに犯人のアジトを突き止める。おりしもアジト内では争っているような声や物音がして、広野が踏み込もうとしたところ爆破が起きる。爆風で飛ばされた広野の無事を確認した茶屋がアジトに踏み込むと、犯人の緑川紀子(二階堂ふみさん)と水沢ゆりあ(太田莉菜さん)は逃げた後で、鈴木一郎と名乗る男(生田斗真さん)が一人たたずんでいた。
共犯者と見なされ身柄を確保される一郎だが、事件のことは一切話さない。犯行が常軌を逸したものだったため、一郎は精神鑑定を受けることになる。茶屋は、爆破事件を目の当たりにしたことのある精神科医・鷲谷真梨子(松雪泰子さん)にあえて鑑定を依頼する。事件の残忍さを知っている人であれば、刑が軽くなるような鑑定結果を出さないと考えたからだ。しかし、その意図を知った真梨子は、あくまでも客観的に判断を下すと一蹴。
真梨子は一切の感情を出さない一郎に興味を持ち、真実の姿を探ろうと彼の過去を調べ始めるのだった…。
生まれつき並外れた知能と身体能力を持ちながらも、感情が無く、痛みを一切感じない“脳男”こと鈴木一郎。彼は犯罪者を抹殺する正義感あふれる殺人ロボットのような存在でした。
最初は容疑者として一郎と対峙していた真梨子ですが、精神鑑定を進めていく中で一郎に感情が存在しないと感じ、操作されたパーソナリティーなどの背景を知るうちに、自分の信念で一郎を救えるはずだと動き出します。そんな彼女が一郎に訴える「あなたは人を殺すために生まれてきたわけじゃない」という言葉が印象的でした。自分の悲しい過去と向き合ってセラピーの道に入り、成功してきたという確信があった真梨子ですが、皮肉なことに、一郎と関わっていく中で、彼女のアイデンティティーが崩壊していきます。真梨子は「どんな人間にも善の心はある」といういわゆる性善説を支持していましたが、ラストではそれがことごとく裏切られてしまいます。さらに皮肉なことに、真梨子が長い間、説得するのにてこずっていた母の気持ちを、真梨子の望まない一郎の取ったある行動のおかげで、すんなり変えることができてしまいました。
かつて入陶大威(=一郎)のトレーナーをしていたアマチュア登山家の伊能(小澤征悦さん)や真梨子の言うように、果たして一郎の中に“感情”は眠っているのでしょうか。確かに、過去に共倒れの危険性もあった登山の中、伊能の命令に背いて一郎が伊能を救ったことや、動物をかわいがる仕草を見せたのは感情の表れと言えるかもしれません。しかし、今や殺人ロボットと化した一郎が留置所にいたハエを殺さずに逃がしたりしているところを考えると、単に“無駄な殺生はしない”という学習の結果とも言えなくもありません。実際、一郎は悪を抹殺する過程で邪魔をしてくる人たちを振り払うように攻撃することはあっても、殺すことはしていません。でも、かくいう私も一郎には感情が存在すると信じたい一人です。ラストで一郎がわざわざ真梨子にある行動を実行することをメールで知らせて、しかも最終的に真梨子の前に現れて、感謝の言葉を述べたのは、感情があってこそのことでしょう。
かなり突っ込みどころがあり、リアリティが無い面もありましたが、美しくクールなダークヒーローともいえる“脳男”の存在感が凄かったですし、人格障害者による犯罪、被害者家族の心の救済といったテーマも描かれていたので見ごたえがありました。爆破シーンやカーアクションもなかなか迫力があってよかったです。