思い出のマーニー (When Marnie Was There)

marnie

アニメーション映画『思い出のマーニー』は、『借りぐらしのアリエッティ』の米林宏昌さんが監督を務め、イギリスの作家のジョーン・G・ロビンソンによる児童文学を映画化したスタジオジブリの最新作です。
先日、劇場に観に行きました。
●導入部のあらすじと感想
札幌に住む12歳の少女・佐々木杏奈(声:高月彩良さん)は、学校では孤立しているようで、いつも“普通の顔”をして喜怒哀楽の表情に乏しい生活をしている。杏奈を引き取って育てている、血の繋がらない母親・頼子(声:松嶋菜々子さん)は、そんな杏奈のことを過剰なまでに心配していた。
そんなある日、杏奈は授業中に持病の喘息の発作で倒れる。事態を重く見た頼子は、主治医である山下医師(声:大泉洋さん)に相談した上で、喘息の療養のために空気のきれいな海辺の村に住む親戚の家に杏奈をしばらく預けることにする。
杏奈がお世話になることになったのは、大岩清正(声:寺島進)・セツ(声:根岸季衣さん)夫妻だ。大岩の家は木々に囲まれていて、室内には素朴な手作りの小物や独立して離れて暮らす娘が幼い頃に描いたのであろう似顔絵が並んでいて温かな雰囲気だ。外に出た杏奈は、湿地の対岸に建つ青い窓枠の洋館「湿っち屋敷」を目にして心を奪われる。
今は人が住んでいる様子のない湿っち屋敷だったが、ある夜、ボートを目にした杏奈は、好奇心にかられてボートを漕いで屋敷のところまで行く。すると杏奈の夢の中に出てきたそっくりの金髪の少女・マーニー(声:有村架純さん)が現れる。人と関わることを拒否していた杏奈だったが、なぜかマーニーとはすぐに打ち解けて意気投合する。マーニーは杏奈に「私たちのことは秘密よ、永久に」と話すのだった…。
生い立ちが複雑なこともあって、自分のことを“目に見えない魔法の輪”の外側にいる存在だと思っている杏奈は、あることをきっかけにしてますます自分の殻に閉じこもっていました。自分のことも好きになれず、みんなも自分のことを好きではないと考えていたのです。そんな杏奈に対し、海辺の村の娘・信子が言った「普通にしようったって無駄。あなたはあなたの通りにさ、見えてるんだから」というセリフが印象的でした。
なかなか自分のことを受け入れられない杏奈ですが、大切な人・マーニーと出会って心の交流を重ねることで少しずつ成長していきます。その交流は幻想的ではあるのですが、単に杏奈の想像だけで生み出されたものや心霊体験のようなものでもありません。後半で様々な謎が解き明かされていき、幻想的な出来事は杏奈自身の隠された記憶の中に潜んでいたものであることが判明して素晴らしかったです。杏奈が体験したひと夏の不思議な物語にとどまらず、杏奈とマーニーの交流が意義深いものへと昇華されていました。
本作の魅力の1つは杏奈とマーニーの交流で、いわゆる人物の内的世界をメインに扱っているので、状況や動きの変化が少なくて派手さがありません。往年のジブリ作品の象徴ともいえる冒険活劇やファンタジーを期待して観てしまうと、物足りなさを感じてしまうかもしれません。でもジブリらしい緻密な表現は健在で、作品の世界観が見事に構築されていました。ジブリ作品では13年ぶりの作画監督となる安藤雅司さん、実写映画で活躍している美術監督・種田陽平さんの起用も良い影響をもたらしたのでしょう。
人間はひとりでは生きていけません。自分の身近にいる人たちがいかにかけがえのない存在であるかを気づくことの大切さ、愛されている自分を知って自らも周りの人たちを愛することの大切さなど、いろんな心の繋がりが感じられる感動的な作品でした。