風立ちぬ (The Wind Rises)

kazetachinu

宮崎駿氏が原作・脚本・監督を務めたアニメーション映画『風立ちぬ』は、ゼロ戦の設計者・堀越二郎氏をモデルに、堀辰雄氏の小説『風立ちぬ』からの着想も盛り込まれた物語です。 主人公・堀越二郎の声は『エヴァンゲリオン』シリーズなどで知られる監督・庵野秀明氏が務めています。
先日、劇場に観に行きました。
●導入部のあらすじと感想
大正時代、田舎で育った少年・堀越二郎は「美しい飛行機を作りたい」という夢を抱き、飛行機の設計者になる決意をする。
やがて二郎は航空工学を学ぶため東京の大学に進む。二郎は大学に向かう汽車の中で帽子が風で飛ばされたことにより里見菜穂子と運命的な出会いを果たす。そんな中、関東大震災に遭い、二郎は菜穂子たちを助ける。
その後、大軍需産業のエリート技師となった二郎は、菜穂子のパラソルが風で飛ばされたことによって菜穂子と再会。2人は急速に恋に落ちる。菜穂子は当時は不治の病として知られていた結核を患っていたが、二郎は臆することなく婚約を申し込むのだった…。
舞台は関東大震災、世界恐慌を経て戦争へと向かう激動の日本です。二郎が後に神話と化したゼロ戦を誕生させる過程を縦軸に、二郎と薄幸の美女・菜穂子との出会いと別れを横軸にして美しい物語が展開されました。
私が特に印象に残ったのは、カプローニと二郎との同じ志を持つ者同士の時空を超えた友情、師弟関係です。睡眠中に見る“夢”の中で二郎はカプローニと出会い、飛行機に対する“夢”を共鳴させます。その場面はファンタジーなのですが、2人が交わす言葉の内容は現実的でした。カプローニの「創造的人生の持ち時間は10年だ。君の10年を力を尽くして生きなさい」という言葉が印象的でした。時間は永遠にあるわけではないので、力を出せる時期に力を尽くさなければならないと改めて思いました。そして、私にとってその時期はまさに“今”なのです。劇中で、日に日に病が悪化していく菜穂子を見て、二郎の妹で医者の卵である加代が「(菜穂子が)山の病院に戻るのは無理なの?」と尋ね、二郎が「僕らは今、一日一日をとても大切に生きてるんだよ」と答える場面がありました。2人はやがて別れが来ることを知りながら、いや、むしろ知っていたからこそ、それまでそばで寄り添って力の限り生きていこうと決断したのでしょう。美しいところだけを愛しき二郎に見てもらって、黙って山の病院へと戻って行く菜穂子の純真さに胸を打たれました。
カプローニは二郎に対して度々「まだ風は吹いているか?日本の少年よ」と尋ね、「生きねばならん」と説きます。自分の夢に忠実にまっすぐ進む二郎には常に風が吹いていました。それは追い風の時もあれば、向かい風の時もあったでしょう。いずれにせよ、力を尽くして生きているからこそ感じる、もしくは発生する風に違いありません。
エンディングで流れた荒井由実(現・松任谷由実)さんの楽曲「ひこうき雲」も映画の世界観とマッチしていて感動的でした。