- 2008年9月2日
映画『イン・ザ・ヒーロー(IN THE HERO)』は、観客に顔を知られることなく肉体を酷使しながら闘うスーツアクターたちにスポットを当てた作品です。メガホンを取っているのは、『EDEN』『モンゴル野球青春記』などの武正晴監督。 共同脚本には、小説「夢をかなえるゾウ」の作家・水野敬也さんが参加しています。
唐沢寿明さんは、主人公の本城渉 役で出演しています。
先日、劇場に観に行きました。
●導入部のあらすじと感想
本城渉(唐沢寿明さん)は、下落合ヒーローアクションクラブ〈HAC〉の代表兼スーツアクターで、その道25年の大ベテランだ。彼は現在テレビで放送中の『神龍戦士ドラゴンフォー』の主役・ドラゴンレッドのスーツアクターとして日々奮闘している。
本城の夢は、いつか自分の顔と名前を出して映画出演することだ。そんな彼のもとに吉報が舞い込む。『神龍戦士ドラゴンフォー』が映画化することになり、その映画に登場する新キャラクターであるドラゴンブラック役として顔を出して出演する話がきたのだ。ところが、その役は人気絶頂の新人俳優・一ノ瀬リョウ(福士蒼汰さん)に変更となってしまう。結局、本城はドラゴンレッドとドラゴンブラックのスーツアクターを務めることになる。
上下関係にもスタッフへの気遣いにも無頓着で生意気なリョウ。彼はハリウッド映画『ラスト・ブレイド』のオーディション中で、子ども映画じゃモチベーションが上がらないとマネージャーの門脇利雄(小出恵介さん)にぼやく始末だ。
本城には別れた元妻・凛子(和久井映見さん)との間に中学生の娘・歩(杉咲花さん)がいるが、歩からは「スーツアクターは俳優じゃない」と言われてしまう。しかも本城がリョウと一緒に仕事をしていることを知ると、歩はリョウの方に興味を示す。
本城は、リョウに現場の心得を教えようとするが一向に受け入れてもらえない。しかし、あることをきっかけにリョウは本城にアクションの教えを請うようになる。リョウは本城の指導の下、下落合HACのメンバーと行動を共にして一からアクションを学ぶのだった…。
熱血漢で礼儀を重んじる本城と、クールで礼節を欠くリョウ。最初は相容れない関係の2人でしたが、次第にお互いの主張や立場を理解し合って師弟のようになっていきます。その関係性が興味深かったです。また、強面ながら女性キャラクター役のスーツアクターを務める海野吾郎(寺島進さん)、関西弁で新人をビシバシ鍛える姉御肌の大芝美咲(黒谷友香さん)、ワイヤーもCGも使わないことにこだわる映画監督のスタンリー・チャン(イ・ジュニク)などもいい味を出していました。
アクションの教えを請うリョウに対し、本城が言った「アクションは個人競技じゃない。アクションはリアクションがあって初めて成立するチームプレイなんだ」という言葉が印象的でした。本城をはじめとするHACのメンバーたちのおかげで、リョウは肉体面や技術だけでなく精神面も鍛えられて人間的にも成長し、夢に近づいていきます。そんな中、なんと本城にも大きなチャンスが巡ってきました。ハリウッド映画『ラスト・ブレイド』のクライマックスシーンの危険な大殺陣をするはずだったアクション俳優が突然降板してしまい、本城に白羽の矢が立ったのです。命をも落としかねない危険なアクションで、しかも本城は長年のスタントにより首を痛めていて、医者からはアクションをやること自体が問題視されるほど深刻なものでした。元妻・凛子やHACのメンバーたちは心配のあまり反対し、そしてリョウも自分のためではないかと気にかけます。その際に本城がリョウに言った「ブルースが俺のヒーローだったように、俺も誰かのヒーローになりたい。俺がやらなきゃ…俺がやらなきゃよ、誰も信じなくなるぜ!アクションには夢があるってことを」という言葉も印象的でした。
アクションとしての見どころはやはりラストシーンでしょう。実際にスーツアクター経験のある唐沢さんが、高さ8.5mからの落下や、燃えさかる炎の中での忍者100人斬りに挑戦しています。15分に及ぶ殺陣のシーンは、それまでの物語の積み重ねもあいまって感動的でした。
ストーリー自体はベタで突っ込みどころもありますが、不器用なまでに真っ直ぐに夢を追いかける人たちの物語として素直に勇気をもらえました。
本作の主題歌は、吉川晃司さんの「Dream On」でした。歌詞の内容はもちろんのこと、曲の雰囲気もどこかノスタルジックで本作の世界観にマッチしていると思いました。そして、冒頭で『神龍戦士ドラゴンフォー』のテーマ曲として流れる串田アキラさんの「誰も知らないヒーロー」にもしびれました。