- 2011年10月1日
映画『風が強く吹いている』に小出恵介さんはハイジ(清瀬灰二)役で、林遣都さんはカケル(蔵原走)役で出演しています。原作は三浦しをんさんの同名小説です。これまでに漫画化、ラジオドラマ化、舞台化もされています。
先日、劇場に観に行きました。
●導入部のあらすじと感想
寛政大学4年生・ハイジ(小出恵介さん)は、高校陸上部の監督を務める父親のもと、幼い頃から陸上に励み、高校時代にはスターランナーとして活躍したが、無理な訓練がたたってひざを故障して、一度は走ることを諦めた。しかし、ハイジは陸上への思いは捨てられず、虎視眈々と竹青荘の住人が箱根駅伝に必要な人数に達するのを狙っていた。竹青荘、通称・アオタケは、陸上競技部に入部して毎朝5キロ走るという入居条件がある代わりに、まかない付きで3万円という破格の家賃で住むことができる陸上競技部の寮で、ハイジはその寮長を務めている。そんな中、ハイジはついに見つけた。それは、天才ランナーだと注目されながらも、高校時代、勝利至上主義の陸上部監督とそりが合わず、問題を起こして退部してしまったカケル(林遣都さん)だ。ハイジは戸惑うカケルを半ば強引に入居させ、ついに箱根駅伝に出場できる10人が揃った。カケルの歓迎会で、ハイジは箱根駅伝出場を目指すと宣言し、ハイジの野望を知らなかった9人は唖然とする。それもそのはず、ハイジとカケル以外の8人は、陸上とは無縁の人たちばかりで、単にまかないの食事と安い家賃目的で毎朝走り続けていただけだったのだ。しかし、ハイジに食事作りや掃除だけでなく生活のあらゆる面倒をみてもらっていた8人は、恩を感じているだけでなくリーダーとしてハイジを慕っていたので、従うことにする。カケルだけは、素人には無理だと強く反対するのだった…。
○寛政大学 駅伝チームのメンバー
・ハイジ:清瀬灰二(小出恵介さん)…4年生。元エリートランナー。駅伝チームのリーダーにして実質的な監督。
・カケル:蔵原走(林遣都さん)…1年生。天才ランナー。純粋に心の底から走ることを望んでいる。
・王子:柏崎茜(中村優一さん)…2年生。端正な顔立ちをしていることから「王子」というあだ名がついた。愛する漫画の山の中で暮らす漫画オタク。
・ニコチャン:平田彰宏(川村陽介さん)…3年生。2浪に1留で25歳のヘビースモーカー。一応陸上経験者。
・ムサ:ムサ・カマラ(ダンテ・カーヴァーさん)…2年生。日本語が上手な国費外国人留学生。身体能力が高い。
・神童:杉山高志(橋本淳さん)…3年生。人口の少ない田舎で何をやっても一番だったことから「神童」というあだ名がついた。往復10キロの山道を歩いて通学していた。
・ユキ:岩倉雪彦(森廉さん)…4年生。すでに司法試験に合格済みの頭脳派。剣道経験者。
・キング:坂口洋平(内野謙太さん)…4年生。クイズオタクの雑学王。サッカー経験者。
・ジョータ:城太郎(斉藤慶太さん)…1年生。女の子にモテることばかり考えている双子の兄。サッカー経験者。
・ジョージ:城次郎(斉藤祥太さん)…1年生。女の子にモテることばかり考えている双子の弟。サッカー経験者。
ハイジの人間的大きさと魅力、カケルが過去の傷を乗り越えて“強さ”を身につけ成長する姿、メンバーの中で足かせとなっていた王子の頑張り、肝心な時に期待に応えることができない神童のエピソードなど、見どころが多くありました。カケルの美しいランニングフォーム、本物の箱根駅伝かと見紛うような映像も見応えありました。
残念な点を挙げるとすれば、時間の都合上仕方がなかったとは思いますが、人物の掘り下げが中途半端なことです。例えば、カケルが両親と勘当同然という情報がありましたが、それ以上両親に関する描写がありませんでした。また、ネタバレになるので詳細は避けますが、ハイジが最後であのような状態になってしまったにもかかわらず、レースの結果があれでは、強そうに見えた東京体育大学1年生・榊浩介(五十嵐隼士さん)はどんな走りをしていたのかと疑問が残ります。
なにはともあれ、ハイジの長距離選手に必要なのは、“速さ”ではなく“強さ”という独自の長距離論が印象的でした。それは、ひざを故障して挫折を味わったハイジだからこそ到達した答えだったのでしょう。「速さだけじゃダメだ。そんなのは虚しい」と話すハイジは、カケルたちメンバーに、仲間と固い絆を結ぶ喜びや、夢を追いかけて自らの限界に挑む素晴らしさを教えてくれました。走るとは、どういうことなのか?…それは唯一ハイジがカケルに答えをくれなかった問いです。その答えはまだ見つからないカケルですが、生きることそのものを問うように、自身に問い続けながらこれから先も走り続けるようです。清々しい青春映画でした。