インビクタス 負けざる者たち

invictus

『インビクタス/負けざる者たち』(原題:Invictus)は、ジョン・カーリン原作の小説をクリント・イーストウッド監督が映画化した作品です。主演であるモーガン・フリーマンは製作総指揮も務めました。
先日、劇場に観に行きました。
●導入部のあらすじと感想
反アパルトヘイト運動により反逆罪として逮捕されて長きに渡り刑務所に収容されたという過去を持つネルソン・マンデラ(モーガン・フリーマン)は、南アフリカ共和国で初めて行われた全人種参加の選挙により、1994年に黒人としては初の大統領に就任。中枢部で働く白人の多くは、マンデラの復讐が始まると思い、戦々恐々で荷物をまとめようとするが、そんな彼らにマンデラは「過去は過去とし、赦しこそがこの国の未来の礎となると信ずる」と説いた。
しかし、アパルトヘイト(人種隔離政策)が撤廃されたにもかかわらず、新政権誕生後も、人種間対立は改善されず、街には貧困と暴力が絶えないままだった。
そんな中、マンデラは、白人のスポーツという位置づけにより差別の象徴と見られてきたラグビー代表チーム“スプリングボクス”の存在に目をつける。前政権のイメージを引きずらないようにと、その名称やユニフォームの色等を変更しようとする動きがあったが、マンデラは「憎しみを捨て、かつての敵を赦そう。赦しは魂を解放する」と呼びかけ、それに反対する。
1995年のラグビー・ワールドカップを通して国民をまとめあげてゆこうとするマンデラは、スプリングボクスの主将フランソワ・ピナール(マット・デイモン)を茶会に招き、スプリングボクスが優勝すれば国が変わるという想いを伝える。そして、狭い牢獄で長い時間を過ごした時に自分を支えた信念を伝え、スプリングボクスが多くの人に応援してもらえるように指示を出すのだった…。
本作は、南アフリカで起こった実話に基づいた物語です。映画のタイトルになっている「インビクタス(invictus)」は、ラテン語で“征服されない”“不屈”を意味し、マンデラが収監生活に耐える力をもらったという、ウィリアム・アーネスト・ヘンリーの詩のタイトルでもあります。その中の「私が我が運命の支配者 私が魂の指揮官」という一節が印象的でした。マンデラは怒りや憎しみに支配されることなく、自ら赦すことを選び、相手を変えたければ自分を変えなければならないという境地に立っていたのです。
マンデラの、チャンスを逃すまいという姿勢も印象的でした。マンデラにはとても大きな愛情と平和の心だけではなく、智恵も備わっているのでしょう。いつ、何を、どのようにやればいいのかを理解しているようでした。
興味深かったのは、ピナールをいわばフィルターにしてマンデラの人物像を見せている点です。時間の都合もあるのかもしれませんが、スプリングボクスが強くなっていく過程やマンデラが刑務所に収監されていた頃の苦しみ、アパルトヘイト絡みの悲惨な状況等があまり描かれていません。そういった点で若干物足りなさを感じましたが、作品のメッセージをまっすぐに伝えるために、他とのバランスを考え、あえて大げさな演出を避けてそうしたのかもしれません。
試合終了後にインタビュアーの「今日は、競技場に集まった6万5千人の南アフリカ人の素晴らしい後押しがあった?」という問いかけに、ピナールは「6万5千人ではない。私たちは4千3百万人のサウスアフリカンだ」と即答しました。マンデラの想いがきちんとピナールに伝わっていると感じられて感動的でした。