この世界の片隅に

konosekai
アニメーション映画『この世界の片隅に』は、こうの史代さんの同名漫画を映画化した作品です。
先日、劇場に観に行きました。
●導入部のあらすじと感想
昭和8年。絵が得意な少女・浦野すずは、兄の代わりに広島の中島本町へ海苔を届けに行く。しかし道に迷って、人さらいのばけもんに捕まってしまう。すずが入れられた籠の中にはもう一人少年がいた。2人はなんとか逃げ出して事なきを得る。
そんなある日、すずは草津の親戚の家で座敷わらしのような少女と出会う。その少女は天井裏から部屋へ入って来て、すずたちが食べ残したスイカをかじっていた。そこですずは祖母に新しいスイカを用意してもらって少女にあげる。
昭和19年。18歳のすず(声:のんさん)は、生まれ育った広島市江波から20km離れた呉で暮らす海軍勤務の文官・北條周作(声:細谷佳正さん)のもとに嫁ぐ。すずが幼い頃に人さらいに捕まった時に出会った少年こそ周作であったが、すずはそのことに気付いていなかった。周作はそれをきっかけにすずを見初めたのだ。
北條家には足を痛めてほとんど寝たきりの母・サン(声:新谷真弓さん)、広海軍工廠技師の父・円太郎(声:牛山茂さん)、結婚して家を出たものの夫が病死して嫁ぎ先と折り合いが悪くなったことから娘の晴美(声:稲葉菜月さん)を連れて出戻っている姉・径子(声:尾身美詞さん)がいた。
すずは慣れない中、頭にハゲができたりして落ち込んだりもしたが、周作のサポートのおかげもあって、持ち前の明るさを取り戻していく。次第に戦争の影響で物資が不足する中、すずは不器用ながらも創意工夫を凝らしながら食事を作る。
ある時、砂糖を買いに出かけたすずは、道に迷って遊郭に行き着いて遊女の白木リン(声:岩井七世さん)と出会う。どうやらすずが幼い頃に草津で出会った座敷わらしのような少女こそリンだったようである。
またある時は、重巡洋艦「青葉」の水兵となった小学校時代の同級生・水原哲(声:小野大輔さん)と再会する。すずだけでなく周作も複雑な思いを抱えるのだった…。

本作は、戦争の残酷さのみに焦点を当てるような描き方ではなく、すずという普通とも言える一人の女性の視点から戦争のある日常を描き出すことによって、戦争の厳しさをおのずと浮き彫りにしていました。
当時の人々の暮らしぶり、町並みなども丁寧かつ綿密に描かれていて、画面から人間の息吹や喜怒哀楽なども伝わってきました。特に印象的だったのは食事のシーンです。戦争の激化により、食料がどんどん手に入りにくくなる中、すずが懸命に工夫を重ねて食事を作り、少しでも幸せに生きようとする姿が心を打ちました。またそんなすずに対して、幼馴染の哲が「わしはどこで人間の当たり前から外されたのかのう。おまえだけは最後までこの世界で普通におってくれ」と言っていたのが印象的でした。
すずの義母・サンが何気なく言った「大ごとじゃと思えたあの頃が懐かしいわ」という言葉も印象的でした。日常の中に平然と悲劇が入り込むという戦争中の特殊な状況下において、人々は日々生きていくために、異常さえも当たり前のこととして受け入れていきます。懸命にささやかな暮らしを守ろうとするその姿が、現代にも通じる何かを感じさせました。そして戦争が終わり、すずが、泣いてばかりじゃ塩分がもったいないとして前を向いて歩き出すところもよかったです。彼女は世界の片隅に自分の居場所を見つけたのです。
唯一残念な点を挙げるとすれば、リンに関する描写が少なかったことでしょう。原作の漫画ではすずと親密な友人関係になりますし、実は周作と旧知の仲であり、周作が好意を寄せたこともある相手なのです。すずがそのことを知って葛藤する描写などもあります。恐らく尺の問題でカットしたのでしょう。エンドクレジットの後半部分ではそれを補うかのように、ラフ画でリンに関する描写がありました。
すずの内面の心象風景等がアニメーションならではの表現を駆使して描かれていたのも凄かったですし、のんさんをはじめとする声優陣の演技も作品の世界観と見事にマッチしていました。

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