藁の楯 わらのたて (大沢たかおさん & 松嶋菜々子さん)

osawatakao03
matsushimananako04

映画『藁の楯』(わらのたて)は、『ビー・バップ・ハイスクール』で知られる漫画家・きうちかずひろ氏が木内一裕名義で発表した小説家としてのデビュー作品を映画化したものです。『十三人の刺客』『悪の教典』などで知られる三池崇史監督がメガホンを取っています。
大沢たかおさんは銘苅一基 役で、松嶋菜々子さんは白岩篤子 役で出演しています。
先日、劇場に観に行きました。
●導入部のあらすじと感想
元経団連会長である経済界の大物・蜷川隆興(山崎努さん)の孫娘が殺害された。8年前にも少女への暴行殺人を起こして逮捕され、仮出所したばかりの清丸国秀(藤原竜也さん)による犯行の可能性が非常に高かった。全国指名手配され、警察による捜査が続くが、清丸の行方はわからないままだ。そこで蜷川は並外れた財力とコネクションを使い、全国紙の全面広告やインターネットサイトを通じて、清丸を殺せば報酬として10億円を支払うという前代未聞の呼びかけを行う。
そのことによって、福岡で潜伏していた清丸は、かくまってくれていた仲間に裏切られて殺されそうになる。命の危険を感じた清丸は自ら警察に出頭する。それを受けて警察庁の上層部は、日本警察の威信を守るため、清丸を無事に警視庁に移送することを第一に考える。その結果、犯罪人の移送としては異例ではあるが、清丸に警護(SP)をつける事になり、警視庁警護課第4係の警部補・銘苅一基(大沢たかおさん)と、同じく第3係の巡査部長・白岩篤子(松嶋菜々子さん)が選ばれた。また、警視庁捜査一課の警部補・奥村武(岸谷五朗さん)と巡査部長・神箸正樹(永山絢斗さん)、 福岡県警の巡査部長・関谷賢示(伊武雅刀さん)も合流。かくしてこの精鋭5人を中心に、殺人犯・清丸の福岡から東京までの移送と警護が開始されるのだった…。
銘苅たちは、守るべき価値があるのかと葛藤しながらも清丸の盾となり、さらに黒幕である蜷川の存在を意識しながらただひたすらに東京を目指します。突っ込みどころが多かったものの、カーアクション等の映像が凄かったですし、サスペンス要素も面白かったです。
実際の高速道路を封鎖して車を何台も破壊したり、クライマックスシーンでは、名古屋中心部半径300メートルを3日間にわたって封鎖。日本で新幹線を使っての撮影は不可能のため、日本製の車両を使った高速鉄道が走っている台湾で、その車両とホームを借り切ったりと、リアリティにこだわって撮影されたそうです。その映像のスケールの大きさは、映画のスクリーンにうってつけで圧倒されました。
銘苅たちの背景も描かれていて、物語に深みを与えていました。ただ残念だったのは、子どもがいる白岩がなぜ死と隣り合わせの仕事をしているのかが分からなかった点です。確かに懸賞金がかけられているという理由で清丸を撃てなかったり、今回の任務を昇進試験を受けるより手っ取り早く出世できるチャンスと捉えていたりと、“プライド”や“出世欲”に起因する背景は描かれています。銘苅と白岩が今回の警護の任務に抜擢されたのはそれぞれ理由があって、その辺にもシングルマザーの設定が生かされています。そうした点を考慮に入れても、やはり子どもを置いて死ぬわけにはいかないという白岩の意思が見え隠れすればするほど、SPという危険な仕事に就いていることへの疑問がわいてきてしまうのです。原作では白岩は男性でシングルマザーという設定がなかったため、余計そう感じてしまうのかもしれません。
銘苅と白岩は職務には忠実で感情を表には出しませんが、決してスーパーヒーローというわけではなく、清丸に対して思うところがあり、悩み、迷い、時には道を間違えそうになる生身の人間でした。タイトルの“藁の楯”はそうしたところからもきているのかもしれません。ちなみに原作の小説には、プロローグ前に「神の目から見れば、人がどんなに命を永らえようとあがいたところで、所詮それは藁の楯を手に戦場に赴くようなものである。(リチャード・ハンコック)」という言葉が載っていました。
単純にサスペンス・アクションとして楽しむのもよし、自身の身に置き換えて“正義”や“命”について考えるのもよし。どちらにせよ映画の世界に入り込んだもの勝ちだと思います。
本作は第66回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に正式出品される事が決定しました。