そして父になる (福山雅治さん)

fukuyama07
映画『そして父になる』は、『誰も知らない』などで知られる是枝裕和監督・脚本による作品です。第66回カンヌ国際映画祭 審査員賞を受賞しました。
福山雅治さんは、主人公・野々宮良多 役で出演しています。
先日、劇場に観に行きました。
●導入部のあらすじと感想
大手建設会社に勤務し、仕事中心の日々を過ごす野々宮良多(福山雅治さん)。妻・みどり(尾野真千子さん)と6歳になる息子・慶多(二宮慶多さん)と一緒に高級マンションで暮らす良多は息子のしつけに厳しく、自分の通った名門小学校を受験させる。
そんなある日、前橋中央総合病院から大事な話があるから来てほしいとの連絡がある。そこは、みどりの実家が近くにあり、みどりが慶多を出産した病院だ。良多とみどりが訪れたところ、衝撃的な事実を知らされる。それは、出生時に息子が他人の子と取り違えられていたということだ。
後日、慶多を病院に連れて行って詳しく検査をしたところ、やはり「生物学的親子ではないと鑑定する」との結果が出た。みどりは気づかなかった自分を責め、一方、良多は「やっぱりそういうことか」と口にする。
それから良多とみどりは取り違えた相手方の夫婦と会う。小さな電器店「つたや商店」を営む斎木雄大(リリー・フランキーさん)と妻・ゆかり(真木よう子さん)だ。病院側は「前例では、100%ご両親は交換という選択肢を選びます」と説明。その言葉に憤る両夫婦だが、とりあえずは戸惑いながらも交流を始めるのだった…。

学歴も仕事も申し分なくスマートに生きてきた良多と、そんな良多の元部下で従順な妻・みどり。学歴も収入もなく一見ちゃらんぽらんな雄大と、肝っ玉があり威勢がいい妻・ゆかり。そんな対照的ともいえる2組の家族像は、お互いの子を一泊だけ交換した際に、その違いが浮き彫りになります。良多の家は裕福でホテルのような無機質な部屋の中、静かでどこか寒々しい雰囲気がただよいます。一方、雄大の家は質素ながら騒々しく楽しくて温かい雰囲気にあふれているのです。この時点で恐らく観客は、どちらの方が家族の絆が強いかを実感することでしょう。でも良多にはそれがわかりません。それどころか経済的に下でガサツな斎木夫婦に対して侮蔑する言動を取るようになります。雄大が良多に言った「負けたことない奴ってのは、ホントに人の気持ちがわかんないんだな」という言葉が印象的でした。
でもそんな良多も、他人に育てられた本当の我が子・琉晴(黄升炫さん)と触れ合い、自分が育ててきた息子・慶多の切ない思いを知ることで、やがて変化していきます。家族の絆とは“血”なのか、一緒に過ごした“時間”なのかと葛藤する良多が印象的でした。そして、良多の父・良輔(夏八木勲さん)と良多の義母・のぶ子(風吹ジュンさん)の登場により、良多のルーツのようなものが見えてきます。父から愛された経験がなく、義母の愛を拒んだ良多は、そもそも子どもをどう愛したらいいのか分からないのです。競馬の馬に例えて「いいか、血だ。これからどんどんその子はお前に似てくるぞ。慶多は逆にどんどん相手の親に似ていくんだ」と語る良輔と、「血なんて繋がっていなくたって、一緒に暮らしてたら情は沸くし似てくるし、夫婦ってそうこうとこあるじゃない。親子もそうなんじゃないかしらね」と話すのぶ子。結局、良多は良輔が語っていたようなことを斎木夫婦に言ってしまうのですが、それに対し、ゆかりは「似てるとか似てないとか、そんなことにこだわってるのは、子どもと繋がってるっていう実感のない男だけよ」と一喝します。実に的を射た意見だと思いました。
良多は、新しい赴任先で元建築屋の研究員(井浦新さん)から、研究所にある人工の林にセミが他所から飛んでくることはそれほど難しいことではないが、この林で一から育てて自前のセミとして成虫になるまでには15年かかったという話を聞いて驚きます。本作のラストで本当の意味での“父”となった良多は、まだスタートラインに立ったばかりです。父としてのミッション完遂までには、それこそまだ15年以上かかるかもしれません。