二流小説家 シリアリスト (上川隆也さん)

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映画『二流小説家 シリアリスト』は、「このミステリーがすごい!2012年版・海外編」「週刊文春ミステリーベスト10 2011年海外部門」「ミステリが読みたい!2012年版・海外編」のすべてで1位に輝き、海外ミステリー部門として初の3冠を達成した、デイヴィッド・ゴードンによる推理小説『二流小説家』が原作です。
上川隆也さんは映画初主演で、赤羽一兵を演じています。
先日、完成披露試写会で鑑賞しました。来週の6月15日より全国にて公開されます。
●導入部のあらすじと感想
いまだ自分の名前で本を出したことがない二流小説家で、ポルノ小説の執筆で生計を立てる赤羽一兵(上川隆也さん)。そんな彼のもとにある日、12年前に連続殺人を起こした死刑囚・呉井大悟(武田真治さん)から手紙が届く。呉井はその手口から“シリアル・フォト・キラー”と呼ばれて世間を騒がせた人物だ。手紙に記されていたのは、自分の話を聞いて本を書いてほしいというものだった。シリアル・フォト・キラーの告白本を書けば、一流小説家になれるかもしれない。赤羽は姪の小林亜衣(小池里奈さん)の勧めもあって、呉井に会ってみることにする。呉井の弁護士・前田礼子(高橋惠子さん)に確認したところ、呉井からの手紙で間違いないようで、呉井の死刑執行後であれば、告白本を出しても構わないという条件を出される。どうして呉井が赤羽に執筆依頼をしたのかは、前田弁護士にも分からない様子で、無罪に持ち込むから残念ながら本は出版されないと言って自信をのぞかせた。前田の助手を務める鳥谷恵美(平山あやさん)の話によると、前田は50歳を過ぎてから弁護士になった魔女のような人とのことだ。
面会を申し込んでついに呉井と対面した赤羽は、どうして自分に執筆依頼をしたのかを尋ねる。すると呉井は、赤羽の文体が好きでファンだからだと答える。そして、自分と自分の信者との愛の物語、官能小説を書くことが話をする条件だと言う。赤羽が考えさせてほしいと言うと、呉井は「赤羽先生は必ず引き受けてくれるはずです」と予言めいたことを言った。
その帰り道、赤羽は、呉井の起こした連続殺人事件の被害者遺族の会の人たちに囲まれ、本の出版に断固として反対だと言われる。しかし、その中の一人、姉が殺害されたという長谷川千夏(片瀬那奈さん)は、姉の頭部を見つけて埋葬できるかもしれないという理由から、書いてくださいと頼んでくるのだった…。
優柔不断で少し頼りない赤羽、悲しき過去を持つ変人死刑囚・呉井、赤羽が一流小説家になれると信じていて尻を叩く姪の亜衣、被害者の妹でいわくつきのホステス・千夏、メディアから売名行為と叩かれようが毅然と呉井を擁護する弁護士・前田、被害者遺族の会の中で特に声を荒げる三島忠志(本田博太郎さん)、呉井を逮捕した刑事で告白本出版に反対する町田邦夫(伊武雅刀さん)など、個性的な登場人物たちが物語を紡いでいきます。
呉井が命じた3人の女性の取材をすることで、赤羽は殺人事件に遭遇することとなります。しかもその手口は呉井が起こした12年前の事件と同じものでした。謎が謎を呼び、クライマックスには意外な展開もあります。赤羽たちと一緒に事件の真相を追いかける感覚で推理しながら観ると、より一層楽しめると思います。
ミステリーやサスペンス要素もさることながら、犯人がそうなるにいたった背景や経緯もしっかり描かれ、人間ドラマに仕上がっているところも凄いと思いました。赤羽が呉井の指す“芸術”と“美”を否定し、「二流であろうと、僕は僕の人生を堂々と生き続けてやる!!」と叫ぶシーンが印象的でした。呉井はそんな赤羽にヘルマン・ヘッセの「この世のあらゆる書物もお前に幸福をもたらしはしない。だが、書物はひそかにお前をお前自身の中に立ち帰らせる」という詩の一部を送りました。しばしば衝突する赤羽と呉井でしたが、ある意味、2人は心の底では互いに理解し合う友人のような関係でもあったようです。赤羽の「私は二流小説家だ」という書き出しで始まる小説『ある死刑囚の肖像』には、本編の前に、あるメッセージが添えられていてそれを物語っていました。
赤羽が何かの本で読んだという「子は母親の呪縛から決して逃れられない」という言葉は、まさに呉井の物語を端的に表していて、赤羽の言うように誰の物語になってもおかしくないという怖さを秘めていて考えさせられました。