聖の青春 (松山ケンイチさん)

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映画『聖の青春』は、29歳の若さでこの世を去った棋士・村山聖氏の生涯をつづる大崎善生氏のノンフィクション小説を実写映画化した作品です。『宇宙兄弟』などの森義隆監督がメガホンを取っています。
松山ケンイチさんは、主人公・村山聖 役で出演しています。
先日、試写会で鑑賞しました。今週末19日から全国公開されます。
●導入部のあらすじと感想
1994年、大阪。アパートの前の路上で倒れてしまった村山聖(松山ケンイチさん)は、近所の三谷工業の人(中本賢さん)に声をかけられる。それからその男性にお願いして手を借りながら関西将棋会館の対局室に向かう。実は聖は“西の怪童”と呼ばれる新世代のプロ棋士だった。5歳の頃よりネフローゼという腎臓の難病を患っており、入院中に父親が暇つぶし用のゲームの1つとして買ってきた将棋に心を奪われたのがきっかけで将棋の世界に入った。
世間では、聖と同世代の天才棋士・羽生善治(東出昌大さん)が新名人となって注目を集めていた。そんな羽生と対局することになった聖は、必死に食らいついたものの、結局負けてしまう。
その矢先、聖はあることを一大決心する。それは、東京に出て羽生のそばで将棋を指して名人になることだ。弟弟子の江川貢(染谷将太さん)が体調を気遣って反対するが、師匠の森信雄(リリー・フランキーさん)は賛成して、引越しの荷造りまでしてくれる。
ついに上京した聖は、森師匠の旧知の仲である将棋雑誌編集長・橋口陽二(筒井道隆さん)にサポートしてもらいながら、橘正一郎(安田顕さん)、荒崎学(柄本時生さん)など東京の棋士たちとの交友範囲も広げていく。
1996年、羽生が前人未踏のタイトル七冠を達成する。さらに将棋に没頭する聖だったが、体調がますます悪化。後に進行性の膀胱癌であることが判明するのだった…。
本作では、聖が自分の“死と生”に切迫して向き合った最期の4年間がメインで描かれていました。
プロ棋士になるには年齢制限があり、満21歳の誕生日までに初段、満26歳の誕生日までに四段に昇格できなければ退会処分となります。聖の弟弟子・江川は次負けたら退会という段階に追い込まれ、「俺これで死ぬのかな」と弱音を吐きます。そんな江川に聖が言った「大丈夫ですよ。人間誰でもいつかは死にますから。そんなことよりも今僕たちが考えなきゃいけないのは、目の前の一手です」という言葉が印象的でした。私などは、死を意識することなくついつい惰性で生きてしまいがちですが、死は誰にでも必ず訪れ、それがいつ来るか分かりません。病魔に侵されていた聖は、自分の持ち時間の無さをいつも意識しながら、一瞬一瞬を懸命に生きていたのでしょう。
聖と羽生の関係性も興味深かったです。少女漫画・麻雀が好きな聖とチェスが好きな羽生。一見すると将棋以外共通点がない2人ですが、勝負にかける思いは一緒でした。それは“負けたくない”という強い思いです。単純に見えますが、それは多分私のような凡人が漠然と感じるものとは全然違うのでしょう。聖は羽生の見ている海はみんなとは違うと見抜き、いつか一緒にそこまで行く約束をしていました。2人にしか分からない世界を共有し、まるで恋愛関係のようでした。
そして一番印象的だったのは、やはりクライマックスの羽生と聖の対局シーンです。実際の対局の棋譜をそのまま再現して、撮影自体は3時間ノーカットで行われたそうです。手に汗握る熱戦が伝わってきて、ある種の迫力を感じました。
聖は「神様のすることは僕には予測できないことだらけです」と言っていました。そんな聖が『将棋年鑑』のアンケートで「神様が一つだけ願いを叶えてくれるとしたら何を望みますか?」という質問に「神様除去」という回答を寄せていたのも印象的でした。