JIN-仁- 完結編 最終回

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昨日、TBS系列にて毎週日曜夜9時から放送されていた日曜劇場『JIN-仁- 完結編』が最終話(第11話)を迎えました。
●あらすじと感想
西郷隆盛(藤本隆宏さん)を中心とする新政府軍が江戸へ入ったため、徳川家に仕えていた旗本たちは「彰義隊」を名乗って上野に集まり、反旗を翻す機会を伺っていました。
一方、体調が悪化するばかりの南方仁(大沢たかおさん)は、松本良順(奥田達士さん)から江戸が総攻撃にあった際の医学所への指図を頼まれます。仁は、自らに残された時間を意識し、持っている医学の知識を残さず仁友堂の医師たちに引き継ぐことに全精力を傾けていました。
橘恭太郎(小出恵介さん)は勝海舟(小日向文世さん)からフランスへの留学を推薦されていましたが、坂本龍馬(内野聖陽さん)暗殺のきっかけを作ってしまったことを思い悩み、最後まで徳川の家臣として忠節を尽くす道を選びました。つまり、彰義隊として戦に身を投じることです。
そして、ついに上野で新政府軍と彰義隊ら旧幕府軍との戦が始まってしまいました。兄・恭太郎の意思を知った咲は、連れ戻そうと戦場に駆けつけて、恭太郎の目の前で流れ弾に当たってしまいました。
仁は仁友堂のみんなと共に医学所にも声をかけて野戦の治療所を設置しました。そこへ運び込まれた咲はとりあえず大事には至りませんでした。治療所には、多紀先生(相島一之さん)ら医学館も協力しに駆けつけていました。
恭太郎に対し、蘭方の医師と本道の医師が共に手を取り合い治療に当たる姿を夢のようだと語る咲と、恭太郎が命がけで守ってきたのは徳川ではなく橘の家ではないかと諭す仁のおかげもあって、恭太郎は上役に腰抜け呼ばわりされながらも戦に参加することをやめ、治療所で仁たちの手伝いをすることにしました。戦自体はたった1日で終わり、今度は官軍による残党狩りが始まりました。
忙しいところ心配をかけまいとして傷口の異変を隠していた咲は、緑膿菌の感染で倒れてしまいます。自然治癒に望みをかけて、免疫力を高める処置を行うものの、咲の容態は好転せず、このままでは敗血症ショックを起こして死に至りかねない状態になってしまいました。咲を救うことができるホスミシンという薬をタイムスリップの時に持ってきたかもしれないことを思い出した仁は、仁友堂のみんなや恭太郎、橘栄(麻生祐未さん)に協力してもらいながら必死に探します。そんな中、頭の中の腫瘍(=坂本龍馬?)にヒントをもらい、仁は現代に戻る方法に気が付きました。不審者扱いされて官軍に額を斬りつけられながらも、仁はついに現代に戻ることに成功しました。
現代に戻った仁は、タイムスリップする前の仁に手術され、一命を取り留めます。それから薬と摘出された胎児様腫瘍を持ち出し、咲のいる時代に戻ることを試みますが、やはり、あの時のように現代の仁がタイムスリップしてしまいました。その後、仁が仁に手術されたという事実は、胎児様腫瘍と共に消えていました。病院に恋人だった未来(中谷美紀さん)の姿もなく、どうやら仁の帰ってきた世界は、仁のかつていた世界とは少し違うようでした。考えられるのはパラレルワールドです。頭の中にいた胎児様腫瘍はバニシング・ツイン(=元々2つあった受精卵の一つがいつのまにか吸収されて消える)ということで説明がつくようです。消えた方の組織が残った方の体の一部に取り込まれる現象は10万人に1人の割合で起こり、仁の場合はそれを頭の中に抱え込んだまま成長して、それがガン化したと考えられます。龍馬の声も、龍馬から血を浴びて細胞に影響を及ぼしてその人格が頭の中の胎児様腫瘍と一体化したと考えられなくもないそうです。
仁が戻った世界では、ペニシリンはイギリスのアレクサンダー・フレミングによる発見より前に日本では既に土着的に生産されていたことになっていました。そして、ペニシリンを土着的な方法で開発し、それを通じ、古来の本道と江戸期に入ってきた西洋医学を融合させ、日本独自の和洋折衷の医療を作り上げた、当時医学界の反逆者と見なされた医療結社として、“仁友堂”が歴史に名を残していました。しかし、いくら調べても仁友堂の面々には仁と咲の名前が見当たりませんでした。仁が橘家があったところへ訪れると、橘医院があり、その家の者だと言う未来そっくりの女性(中谷美紀さん)がいました。仁が咲の子孫であるその女性に話を伺うと、死線をさまよった咲はあの後、恭太郎が林の中で拾ったガラス瓶に入った薬で助かったとのことです。薬の出所は不明となっていました。仁の存在そのものが無かったものとして歴史の修正力が働いたからでしょう。明治維新の後に咲は実家を改造して橘医院を開きました。恭太郎は坂本龍馬の船中九策のうちの「皆が等しく適切な医療を受けられる保険なる制度をつくること」に感銘を受け、その実現に走り回ったとのことでした。龍馬の精神が受け継がれたおかげか、日本の国民医療費負担は世界で最も低いということになっていました。咲は亡くなった野風(中谷美紀さん)たちの意向もあって、野風の娘・安寿を引き取って育てました。咲は生涯独身を貫いたそうです。それで子孫であるその女性が野風にそっくりだったんですね。その女性の名前は橘未来でした。未来に揚げ出し豆腐が好きかと訊ねられ、はいと答えると、仁は古い手紙を渡されました。手紙には、◯◯先生へと綴られていて、もう名前も顔も思い出せない仁への咲の想いが書き記されていました。前述の通り歴史の修正力によって、仁は人々の記憶から消され、龍馬と一緒に撮られたはずの写真からも存在を消されていましたが、咲が仁を想う気持ちまでは消せなかったようです。咲が皆のように記憶から消される前にと書き記した文の最後には、「橘咲は先生をお慕い申しておりました」とありました。それを読んだ仁は涙を流し、私もお慕い申しておりましたとつぶやきます。仁の記憶もまた歴史の修正力によって、いずれ時の狭間に消えていくのかもしれません。仁は腫瘍を手術で除去される際に見た龍馬の「わしらはおるぜよ。見えんでも聞こえんでもいつの日も先生と共に」という言葉を思い出していました。仁は空を見上げて「それでもこの陽の美しさを忘れることはない。当たり前のこの世界は誰もが闘い、もがき苦しみ、命を落とし、勝ち取ってきた無数の奇跡で編み上げられていることを俺は忘れないだろう。そして、さらなる光を与えよう。今度は俺が未来の為にこの手で…」と太陽に手をかざして掴む仕草をするのでした。
エンドロール後に仁の働く病院に橘未来が緊急搬送されてきました。脳に腫瘍があり、しかも脳幹部に食い込んでいるという厄介な状態でした。仁は自ら執刀を申し出ます。今度こそ未来を救うことができるのでしょう…。
緑膿菌の感染で倒れた咲を仁が抱きしめて、彰義隊の心境を絡めて「もし、かけがえのないものがなくなってしまうのなら、一緒になくなるのが一番幸せだって。そんな風にも思ったのかなって…」と話したシーンが印象的でした。その後繋いだ手を離してしまうのですが、それが仁と咲の永遠の別れになることは、視聴者として薄々気付いていましたので、なんとも切なかったです。
仁が咲を野風に見間違えたり、咲と安寿が同じように天に向かって手を伸ばしていたりしたのは、今にして思えば歴史の変化を暗示していました。そして、最終的に仁も現代で太陽に向かって手を伸ばします。未来は自分の手で切り拓いて掴んでいくものなのです。
平成二十二年の十円玉のおかげで咲は仁の存在をおぼろげに思い出すわけですが、なぜそこに歴史の修正力が働かなかったのかとか疑問は残ります。でも、裏を返せば、それに関してもいろいろと解釈して楽しめる余地があるともいえます。
なにはともあれ、綺麗にまとまっていて良かったです。